PHREEQCとは何か
PHREEQC(フリーク)は、米国地質調査所(USGS)が開発・無償公開している地球化学計算ソフトウェアである。名前は “pH-REdox-EQuilibrium C” の略で、その名の通り水−岩石反応のpH・酸化還元平衡を計算することを得意としている。
具体的にできることを挙げますと:
- 水溶液中の化学種分布(Speciation)
- 鉱物の溶解・沈殿(EQUILIBRIUM_PHASES)
- 水の混合(MIXING)
- 反応速度論的計算(KINETICS)
- 酸化還元シーケンス(Redox sequences)
地下水の水質解析、熱水変質、CO₂地中貯留(CCS)、海水と淡水の混合など、地球科学・環境工学の幅広い分野で使われている。また、完全無料・オープンソースという点も研究者や学生の皆様にとって大きな強みとなっている。
Step 1:PHREEQCのダウンロード
USGS of 公式ページへ
ブラウザで以下のURLにアクセスしてください:
PHREEQC Version 3: https://www.usgs.gov/software/phreeqc-version-3
ページ中ほどの Downloads セクションから、OSに合ったインストーラーをお選びください。Windowsの場合は phreeqci-3.8.6-17100.msi ファイルをダウンロードします(2026年5月現在)。
PHREEQCは非常に有名なソフトウェアであるため、非公式の配布サイトも存在します。データベース(.dat ファイル)の整合性を保証するためにも、USGSの公式ページからのみダウンロードするようにしてください。
インストーラーの実行
ダウンロードした phreeqci-3.8.6-17100.msi ファイルをダブルクリックして、インストールを進めてください。デフォルト設定のままで問題ありません。インストールが完了すると、以下のフォルダにファイルが展開されます:
C:\Program Files (x86)\USGS\Phreeqc Interactive 3.x.x-xxxxx\
bin フォルダの中にある phreeqci.exe(PHREEQCのGUI版)が起動ファイルです。
Step 2:PHREEQCの起動と作業フォルダの準備
作業フォルダを作る(重要)
PHREEQCを使い始める前に、デスクトップに専用フォルダを作成しておくことを強くおすすめします。
例:C:\Users\YourName\Desktop\PHREEQC_work\
PHREEQCは日本語パスに対応していない場合があります。フォルダ名に日本語・スペース・特殊文字を使うと、ファイルの保存や読み込みでエラーが発生することがあります。PHREEQC_work や phreeqc のように英数字のみで命名してください。
PHREEQCを起動する
bin フォルダ内の phreeqci.exe をダブルクリックしてください。またはデスクトップにショートカットを作っておくと便利です。
PHREEQCのウィンドウが開いたら起動成功です。画面左側にアイコンバーが並んでいますが、これが各計算ブロック(SOLUTION・EQUILIBRIUM_PHASESなど)へのショートカットになっています。
Step 3:純水を定義する(SOLUTION)
SOLUTIONとは
PHREEQCで最初にすることは、計算対象の「水(溶液)」を定義することです。この定義ブロックを SOLUTION と呼びます。
純水(蒸留水)は溶質が何も含まれていない水です。PHREEQCで純水を定義する場合、SOLUTIONブロックにデフォルト値をそのままお使いいただければ大丈夫です。
GUIでの操作手順
画面左のアイコンバーから SOLUTIONアイコンをクリックしてください。SOLUTION設定ウィンドウが表示されます。
純水の場合は何も変更せずに OK をクリックするだけで構いません。すると左側のテキストエリアに、以下のようなコードが自動生成されます:
SOLUTION 1
temp 25
pH 7
pe 4
redox pe
units mmol/kgw
density 1
-water 1 # kg
各パラメータの意味は次の通りです:
| パラメータ | 値 | 意味 |
|---|---|---|
temp |
25 | 温度 [℃] |
pH |
7 | pH(中性) |
pe |
4 | 酸化還元電位(pe値) |
redox |
pe | 酸化還元の基準をpeで定義 |
units |
mmol/kgw | 濃度の単位(水1kgあたりのmmol) |
density |
1 | 密度 [g/cm³] |
-water |
1 | 水の量 [kg] |
pe = 4 は、地球表面の典型的な酸化還元条件(やや酸化的な環境)に相当する。pe が高いほど酸化的、低いほど還元的な環境を表す。詳しくは酸化還元反応の回で解説する。
Step 4:ENDを入力して計算ブロックを閉じる
PHREEQCでは、各計算ブロックの終わりに必ず END を入力する必要があります。
テキストエリアの末尾をクリックして、新しい行に END と入力してください:
SOLUTION 1
temp 25
pH 7
pe 4
redox pe
units mmol/kgw
density 1
-water 1 # kg
END
END がないと、複数の計算ブロックが存在する場合にPHREEQCがどこで一つの計算が終わるかを判断できません。必ず入力する習慣をつけるようにしましょう。
Step 5:計算の実行
SOLUTION 1 を選択する
画面左のツリービューで SOLUTION 1 をクリックして選択してください。選択されると行がハイライトされます。
次に、その行の隣にある「点(・)」をクリックします。すると END が自動的に追記されます(すでに手入力している場合は不要です)。
RUN で計算を実行
メニューバーまたはツールバーの Run ボタンをクリックしてください。
ファイルの保存ダイアログ
保存ダイアログが表示されたら、Step 2で作った作業フォルダを選択し、ファイル名を入力してください。
例:pure_water.pqi
熱力学データベースを選ぶ
Database files のドロップダウンから、phreeqc.dat を選択してください。これはPHREEQCの標準的な熱力学データベースです。地熱関係の多くの鉱物・化学種や、高温条件を取り扱う場合は、llnl.datを使用します。
その後 Start をクリックすると計算が始まります。計算が完了したら Dismiss をクリックして閉じてください。
Step 6:結果(Output)を読む
計算が終わると、画面に Output が表示されます。純水の計算結果の冒頭はこのようになっています:
-----------------------------Solution composition------------------------------
Elements Molality Moles
Pure water
----------------------------Description of solution----------------------------
pH = 7.000
pe = 4.000
Specific Conductance (µS/cm, 25°C) = 0
Density (g/cm³) = 0.99706
Volume (L) = 1.00297
Activity of water = 1.000
Ionic strength (mol/kg) = 1.007e-07
Mass of water (kg)= 1.000
Total alkalinity (eq/kg) = 1.070e-07
Temperature (°C)= 25.000
読み方のポイント
pH = 7.000 ── 入力通りの中性です。
Specific Conductance = 0 ── 純水には電解質が含まれないため、電気伝導度はゼロになります。
Ionic strength = 1.007e-07 ── 純水でもH⁺とOH⁻が存在するため、イオン強度はゼロではなくごく微小な値になります。
続いてOutputには、化学種の分布(Species distribution)も表示されます:
----------------------------Distribution of species----------------------------
Log Log Log mole V
Species Molality Activity Molality Activity Gamma cm³/mol
H2O 5.551e+01 1.000e+00 1.744 0.000 0.000 18.073
H+ 1.001e-07 1.000e-07 -7.000 -7.000 0.000 0.00
OH- 1.001e-07 1.000e-07 -7.000 -7.000 0.000 -4.15
純水では H⁺ と OH⁻ の濃度がともに \(10^{-7}\) mol/kg(= pH 7)になっていることが確認できます。
初めての計算、完了
PHREEQCのインストールから純水の計算実行・結果確認まで、一通り完了しました。
今回のポイントをまとめますと:
| 手順 | ポイント |
|---|---|
| フォルダ名 | 必ず英語で命名してください |
| SOLUTION | 純水はデフォルト設定のまま |
| END | 各ブロックの終わりに必須 |
| Output | pH・電気伝導度・イオン強度を確認 |
次回は、実際の海水データを入力してSpeciation(化学種分布)を計算します。Na・Ca・Mg・SO₄などの主要イオンを入力し、どのような化学種として水中に存在しているかを調べていきましょう。
参考文献(References)
このシリーズの他の記事:
- #1 インストールと最初の計算(本記事)
- #2 Speciationで海水を解析する
- #3 MixingとEQUILIBRIUM_PHASES
DeepFlow | 地球科学シミュレーションの深みへ