PHREEQCをゼロから始める #20:平衡定数(log K)とギブス自由エネルギーで鉱物の”勝ち負け”を読む — 玄武岩-CO2反応の二次鉱物を熱力学で説明する

化学平衡定数(log K)とギブス自由エネルギー(ΔG)、飽和指数(SI)から、玄武岩-CO2反応で「どの鉱物が析出するか」を熱力学的に読み解く。Hessの法則で反応のlog Kを足し引きし、PHREEQC/Thermoddemの実データ(Satake et al. 2025・CarbFix再現)でCalcite析出やスメクタイト競合を数値で説明する実践ガイド。
Geochemistry
PHREEQC
Thermodynamics
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DeepFlows

公開

2026年7月16日

はじめに:PHREEQCが「裏で」やっていること

これまでの玄武岩-CO2 反応シリーズ(#17 CarbFix 再現、#18 Satake et al. 2025 再現)では、反応速度論(KINETICS)を用いて「一次鉱物がどれくらいの速さで溶けるか」を追いかけてきた。しかし、溶け出したイオンからどの二次鉱物が実際に析出するのか——Calcite なのか、スメクタイトなのか、ゼオライトなのか——を決めているのは、速度論ではない。その判定はすべて、データベースに書かれた一つの数字、平衡定数(equilibrium constant)の対数 log K が担っている。

PHREEQC の EQUILIBRIUM_PHASES に鉱物名を並べるだけで、ソフトウェアは「この溶液から出る/出ない」を自動で判定してくれる。しかしその内部では、log K を使ったギブス自由エネルギーの比較が黙々と行われている。本稿の目的は、このブラックボックスを手計算で開くことである。log K さえ読めれば、鉱物どうしの「勝ち負け」は紙と鉛筆で説明できる。

題材には、すでに本シリーズで公開した2つの再現研究——Satake et al. (2025) (Satake ほか 2025年) の玄武岩バッチ反応(250℃)と、Gysi (2017) (Gysi 2017年) に基づく CarbFix 型の滴定モデル——の結果をそのまま使う。使用する log K はすべて公開データベース Thermoddem (Blanc ほか 2012年) の値である。

本稿の見取り図:log K から ΔG・SI を経て「どの鉱物が析出するか」までを一本で結ぶ。

本稿の見取り図:log K から ΔG・SI を経て「どの鉱物が析出するか」までを一本で結ぶ。

1. 平衡定数とギブス自由エネルギー — たった一本の親方程式

まず、すべての出発点となる関係式を示す。ギブス自由エネルギー(Gibbs free energy、ギブズの自由エネルギーとも表記される)\(\Delta G^\circ\) と平衡定数 \(K\) は、次の一本で結ばれている。

\[ \Delta G^\circ = -2.303\,RT \log K \]

\(\Delta G\) は「その反応が下り坂か上り坂か」を表すエネルギーである。マイナスなら下り坂(自発的に進む)、プラスなら上り坂(進まない)。ここで \(2.303\,RT\) は「log K が 1 変わると、エネルギーが何 kJ 動くか」の換算係数であり、温度で決まる。

温度 \(2.303\,RT\)(log K 1単位あたりの kJ/mol)
25 ℃ 5.71
100 ℃ 7.14
250 ℃ 10.02

握っておくべき符号のルールはこれだけである。

  • log K プラス → ΔG マイナス → 下り坂・安定(その向きに進む)
  • log K マイナス → ΔG プラス → 上り坂・不安定(進まない)

この一本さえあれば、エネルギーも、どちらの鉱物が安定かも、すべてここから計算できる。


2. log K の正体 — 「平衡での活量の比」

平衡定数 \(K\) とは、「平衡に達したときの、生成物の活量を反応物の活量で割った比」である。活量(activity)は、いわば「効きめの濃度」と考えればよい。

ここで決定的に重要なルールが一つある。純粋な固体(鉱物)と水は、活量 = 1 と置く。純物質だからである。したがって、式の中で固体と水は「1」になって消える。

石英(Quartz)で一歩ずつ見てみよう。Thermoddem に書かれた溶解反応と log K は次の通りである。

Quartz(alpha):  SiO2 + 2H2O  =  H4SiO4        log K = -3.734

この平衡定数を、定義どおり「生成物の活量 ÷ 反応物の活量」で、いったんすべて書き出してみる。反応 \(\mathrm{SiO_2 + 2H_2O = H_4SiO_4}\) の生成物は \(\mathrm{H_4SiO_4}\)、反応物は \(\mathrm{SiO_2}\)\(\mathrm{H_2O}\) である。

\[ K = \frac{a(\mathrm{H_4SiO_4})}{a(\mathrm{SiO_2}) \cdot a(\mathrm{H_2O})^2} \]

ここで、先ほどのルールを使う。\(\mathrm{SiO_2}\) は純粋な固体なので \(a(\mathrm{SiO_2}) = 1\)、水も \(a(\mathrm{H_2O}) \approx 1\)分母がまるごと 1 になって消えるので、

\[ K = a(\mathrm{H_4SiO_4}) = 10^{\log K} = 10^{-3.734} \approx 1.8 \times 10^{-4} \]

つまり「石英と平衡にある水に溶けているシリカ(\(\mathrm{H_4SiO_4}\))の活量は \(1.8 \times 10^{-4}\)」という意味であり、これが石英の溶解度である。log K は、こうした具体的な平衡の数字を裏に持っている。

pH が効く鉱物 — Calcite

次に、pH に依存するタイプを見る。Calcite の溶解反応は次の通りである。

Calcite:  CaCO3 + H+  =  Ca2+ + HCO3-        log K = 1.847

同じように平衡定数を書き出す。反応 \(\mathrm{CaCO_3 + H^+ = Ca^{2+} + HCO_3^-}\) の生成物は \(\mathrm{Ca^{2+}}\)\(\mathrm{HCO_3^-}\)、反応物は固体 \(\mathrm{CaCO_3}\)\(\mathrm{H^+}\) である。

\[ K = \frac{a(\mathrm{Ca^{2+}}) \cdot a(\mathrm{HCO_3^-})}{a(\mathrm{CaCO_3}) \cdot a(\mathrm{H^+})} = \frac{a(\mathrm{Ca^{2+}}) \cdot a(\mathrm{HCO_3^-})}{a(\mathrm{H^+})} \]

固体 \(\mathrm{CaCO_3}\) は 1 で消えるが、今度は分母に \(a(\mathrm{H^+})\) が残る。ここが Quartz との決定的な違いで、pH に効く仕掛けである。

これを飽和指数(saturation index, SI)の形——「今の水」の活量積 IAP と K の比の対数 \(\mathrm{SI} = \log(\mathrm{IAP}/K)\)(詳しくは §3)——で書き下し、pH の定義 \(-\log a(\mathrm{H^+}) = \mathrm{pH}\) を使うと、

\[ \mathrm{SI} = \log a(\mathrm{Ca^{2+}}) + \log a(\mathrm{HCO_3^-}) \underbrace{-\,\log a(\mathrm{H^+})}_{=\,+\mathrm{pH}} - 1.847 = \log a(\mathrm{Ca^{2+}}) + \log a(\mathrm{HCO_3^-}) + \mathrm{pH} - 1.847 \]

つまり pH は SI の中に「係数 +1」でそのまま入る。pH が 1 上がると SI が 1 上がる(= 10 倍 過飽和側へ動く)。これが「Calcite は pH で析出する」の正体である。

たとえば \(a(\mathrm{Ca^{2+}}) = a(\mathrm{HCO_3^-}) = 10^{-3}\) と置くと \(\mathrm{SI} = \mathrm{pH} - 7.847\) となり、pH を動かすだけで析出の可否が反転する。

pH SI = pH − 7.847 挙動
6 −1.85 未飽和 → Calcite が溶ける
7 −0.85 まだ未飽和
8 +0.15 過飽和 → Calcite が析出
9 +1.15 強く過飽和 → さらに析出

玄武岩-CO2 系で、CO2 が消費されて pH が上がると Calcite が析出するのは、まさにこの仕組みである。


3. IAP と SI — 「今の水」は平衡からどれだけズレているか

\(K\) は「平衡での」比であった。これに対し IAP(イオン活量積, ion activity product) は、同じ式に「今の溶液の」活量を入れた積である。式の形は \(K\) と同じで、中身が「平衡の値」か「今の値」かの違いだけである。その2つの比の対数が SI である。

\[ \mathrm{SI} = \log \left( \frac{\mathrm{IAP}}{K} \right) \]

  • SI > 0:今の水が平衡より濃い → 過飽和 → その鉱物が析出する
  • SI = 0:ちょうど平衡(飽和)
  • SI < 0:今の水が薄い → 未飽和 → 出ない(あれば溶ける)

数字で一度やってみる。石英の平衡は §2 で \(K = 10^{-3.734}\) と分かった。いま、ある水のシリカ活量が \(a(\mathrm{H_4SiO_4}) = 10^{-3.0}\) だったとする(平衡より濃い)。IAP は同じ式に「今の値」を入れるだけなので \(\mathrm{IAP} = 10^{-3.0}\)。すると、

\[ \mathrm{SI} = \log\frac{\mathrm{IAP}}{K} = \log 10^{-3.0} - \log 10^{-3.734} = (-3.0) - (-3.734) = +0.734 \]

SI > 0 なので過飽和、石英が析出する。\(10^{+0.734} \approx 5.4\) なので、今の水は平衡の約 5.4 倍濃い、という意味である。(log の割り算が「指数の引き算」になるのが計算のコツである。)

SI はエネルギーにも直せる。これも親方程式の仲間である。

\[ \text{析出の駆動力} = 2.303\,RT \cdot \mathrm{SI} \]

SI を見たときの読み方の順序を、一枚の図にまとめておく。まず符号(±)で出る/出ないを見て、次に \(10^{\mathrm{SI}}\) で「何倍ズレているか」、最後に \(2.303\,RT \times \mathrm{SI}\) で「何 kJ か」を読む。

SI の読み方:符号 → 10^SI(何倍ズレ)→ 2.303RT·SI(何 kJ)の順に読む。

SI の読み方:符号 → 10^SI(何倍ズレ)→ 2.303RT·SI(何 kJ)の順に読む。

4. 反応を「組み合わせる」技 — Hess の法則

ここからが本丸である。鉱物どうしを比べるとは、反応を足し引きして log K を足し引きすること、ただそれだけである。ルールは3つ。

反応にする操作 log K は…
反応を 逆向き にする 符号を反転(+ ↔︎ −)
反応を n 倍 する n 倍 する
反応を 足す 足す(K は掛け算 = log は足し算)

最後に、両辺に同じ顔で出ている物質を消す。基本形として、Anorthite(灰長石)が Kaolinite(カオリナイト)に変わる反応を組んでみる。材料は Thermoddem の 25℃ 溶解反応である。

(1) Anorthite + 8H+ = 2Al3+ + Ca2+ + 2H4SiO4      log K = +24.235
(2) Kaolinite + 6H+ = 2Al3+ + 2H4SiO4 + H2O        log K = +6.483

狙いは、Anorthite と Kaolinite を1本の式にまとめることである。そのために \((2)\)逆向きにし(log K の符号を反転して \(-6.483\))、\((1)\) とそのまま足し合わせる。

  (1) そのまま :  Anorthite + 8H+          = 2Al3+ + Ca2+ + 2H4SiO4    (+24.235)
  (2) 逆向き   :  2Al3+ + 2H4SiO4 + H2O    = Kaolinite + 6H+           (-6.483)
  ──────────────────────────────────────────────────────────────
  足し合わせ   :  Anorthite + 8H+ + 2Al3+ + 2H4SiO4 + H2O
                    = 2Al3+ + Ca2+ + 2H4SiO4 + Kaolinite + 6H+

次に、左右に同じ顔で出ている物質を1つずつ消していく。

  • \(2\mathrm{Al^{3+}}\) … 左に2個・右に2個 → 消える
  • \(2\mathrm{H_4SiO_4}\) … 左に2個・右に2個 → 消える
  • \(\mathrm{H^+}\) … 左に8個・右に6個 → 差し引き 左に2個だけ残る

消し終えると、次の1本が残る。

\[ \text{Anorthite} + 2\mathrm{H^+} + \mathrm{H_2O} = \text{Kaolinite} + \mathrm{Ca^{2+}} \]

log K は、使った向きのまま足すだけである(\((1)\) そのままの \(+24.235\) と、\((2)\) を逆向きにした \(-6.483\) を足す)。

\[ \log K = 24.235 - 6.483 = +17.75 \]

log K = +17.75、すなわち \(\Delta G^\circ(25℃) = -2.303\,RT \times \log K \approx -5.71 \times 17.75 \approx -101\) kJ/mol の猛烈な下り坂である。Anorthite の Al は、喜んで Kaolinite に落ちる。


5. 例B:これが CO2 固定そのもの — Anorthite + CO2 → Calcite + Kaolinite

CarbFix や Satake の研究が狙う「CO2 の鉱物固定」を、log K の言葉で書いてみよう。材料に CO2 の溶解反応と Calcite を加える。

(1) Anorthite + 8H+ = 2Al3+ + Ca2+ + 2H4SiO4      +24.235
(2) Kaolinite + 6H+ = 2Al3+ + 2H4SiO4 + H2O        +6.483
(3) Calcite + H+ = Ca2+ + HCO3-                     +1.847
(4) CO2 + H2O = HCO3- + H+                          -7.821

今度は4本を組み合わせる。目標は、Anorthite・CO2・Calcite・Kaolinite だけを残し、途中のイオンをすべて消すことである。\((1)\) はそのまま、\((2)\)\((3)\)逆向き\((4)\) はそのまま、として並べて足す。

  (1) そのまま :  Anorthite + 8H+       = 2Al3+ + Ca2+ + 2H4SiO4    (+24.235)
  (2) 逆向き   :  2Al3+ + 2H4SiO4 + H2O = Kaolinite + 6H+           (-6.483)
  (3) 逆向き   :  Ca2+ + HCO3-          = Calcite + H+              (-1.847)
  (4) そのまま :  CO2 + H2O             = HCO3- + H+                (-7.821)

左右で消える物質を、順に確認する。

  • \(2\mathrm{Al^{3+}}\)(左右2個ずつ)、\(2\mathrm{H_4SiO_4}\)(左右2個ずつ)、\(\mathrm{Ca^{2+}}\)(左右1個ずつ)、\(\mathrm{HCO_3^-}\)(左右1個ずつ) … すべて 消える
  • \(\mathrm{H^+}\) … 左は \((1)\) の8個、右は \((2)(3)(4)\)\(6+1+1=8\) 個 → ちょうど相殺
  • \(\mathrm{H_2O}\) … 左に \((2)\)\((4)\) の計2個が残る

残るのは、まさに CO2 固定の反応そのものである。

\[ \text{Anorthite} + \mathrm{CO_2} + 2\mathrm{H_2O} = \text{Calcite} + \text{Kaolinite} \]

log K は、4つを符号どおり足すだけ(\((1)\) は+、\((2)(3)(4)\) は−)。

\[ \log K = 24.235 - 6.483 - 1.847 - 7.821 = +8.08 \]

\(\Delta G^\circ(25℃) \approx -5.71 \times 8.08 \approx -46\) kJ/mol の下り坂である。一次鉱物 Anorthite が CO2 を Calcite として固定し、残った Al は Kaolinite になる。熱力学的には確実に進む反応であることが、紙の上で分かる。

実データによる裏づけ(Satake et al. 2025 再現)

これは机上の計算にとどまらない。#18 の Satake et al. (2025) 再現モデル(利尻島玄武岩、250℃)を、二次鉱物の飽和指数を出力する設定で回すと、Calcite は反応開始から約 4〜5 日目に SI = 0 に到達し、そのまま析出を続けた(最終 \(2.0 \times 10^{-4}\) mol)。

ノート

紙の計算と PHREEQC の答えが一致する

log K の足し引きが示した「Anorthite + CO2 → Calcite は下り坂」という結論は、そのまま PHREEQC の数値実験でも再現された。Calcite の SI がマイナスからゼロへ立ち上がり、以降ゼロに張り付く(=溶出と析出が釣り合う)挙動は、下の図の黄色の線である。log K が正しく「下り坂」と言った反応は、実際に進むのである。


6. 例C:炭酸塩の勝敗 — Dolomite = Calcite + Magnesite

CO2 固定では、Calcite だけでなく Dolomite(ドロマイト)や Magnesite(マグネサイト)も候補になる。どれが出るのか。これも log K の引き算で見える。

(1) Dolomite  + 2H+ = Ca2+ + Mg2+ + 2HCO3-        +3.533
(2) Calcite   + H+  = Ca2+ + HCO3-                 +1.847
(3) Magnesite(Natur) + H+ = Mg2+ + HCO3-          +1.415

Dolomite を Calcite と Magnesite に分ける式を作る。\((1)\) そのまま、\((2)\)\((3)\)逆向きにして足す。

  (1) そのまま :  Dolomite + 2H+ = Ca2+ + Mg2+ + 2HCO3-    (+3.533)
  (2) 逆向き   :  Ca2+ + HCO3-   = Calcite + H+            (-1.847)
  (3) 逆向き   :  Mg2+ + HCO3-   = Magnesite + H+          (-1.415)

左右で \(\mathrm{Ca^{2+}}\)\(\mathrm{Mg^{2+}}\)\(2\mathrm{HCO_3^-}\)\(2\mathrm{H^+}\) がすべて相殺し、固体だけが残る。

\[ \text{Dolomite} = \text{Calcite} + \text{Magnesite} \] \[ \log K = 3.533 - 1.847 - 1.415 = +0.27 \]

log K = +0.27、\(\Delta G^\circ \approx -1.5\) kJ/mol。ほぼ拮抗である。Dolomite と「Calcite + Magnesite の組」の安定性の差は、わずか数 kJ しかない。これほどの僅差であるため、実際にどちらが出るかは溶液の組成に強く依存する。

Satake 再現モデル(250℃)の最終状態を見ると、この僅差が現実にどう転ぶかが分かる。

鉱物 最終 SI 挙動
Calcite 0.00 析出(\(2.0 \times 10^{-4}\) mol)
Dolomite −0.79 未飽和・析出せず
Magnesite(Natur) −0.57 未飽和・析出せず

この系では Calcite が勝ち、Dolomite と Magnesite は飽和に届かなかった。炭酸塩トラップの主役が Calcite になる、という結果には、こうした log K レベルの拮抗と、溶液の Mg 供給の少なさが効いている。


7. 例D:スメクタイトの競合 — 勝敗を分けるのは「元素供給」

二次鉱物の中でも、スメクタイト(膨潤性粘土)の競合はやや込み入っている。ここでは Satake 再現モデルの実測 SI 推移を使い、「なぜあるスメクタイトは出て、別のスメクタイトは出ないのか」を追う。

まず、3つのスメクタイト端成分の組成(Thermoddem)を比べる。

Saponite(FeMg) : Mg0.17 Mg2 Fe1 Al0.34 ...   log K = 26.022   ← Fe を含む
Saponite(Mg)   : Mg0.17 Mg3   Al0.34 ...      log K = 28.810   ← Fe を含まない
Montmorillonite(HcMg) : Al1.4 Mg0.9 ...        log K =  5.996   ← Al を多く使う

Saponite(FeMg) と Saponite(Mg) は、Fe を含むか否かだけが違う(一方は Mg の一部が Fe に置き換わっている)。この一点が、勝敗を決定的に分ける。

Satake et al. (2025) 再現モデル(250℃)における二次鉱物の飽和指数の時間推移。Fe を含む Saponite(FeMg) は析出するが、Fe を含まない Saponite(Mg) は SI ≈ −1.5 のまま最後まで析出しない。

Satake et al. (2025) 再現モデル(250℃)における二次鉱物の飽和指数の時間推移。Fe を含む Saponite(FeMg) は析出するが、Fe を含まない Saponite(Mg) は SI ≈ −1.5 のまま最後まで析出しない。

図を時間で追うと、次の物語が読める。

  1. 反応初期(〜1日):すべての鉱物が未飽和(SI < 0)。まだ何も出ない。
  2. 約1.6日目Saponite(FeMg) が最初に SI = 0 に到達し、析出を開始する。一次鉱物 Fayalite(\(\mathrm{Fe_2SiO_4}\))が溶けて Fe を供給するため、Fe を要求する Saponite(FeMg) の材料が揃うのである。
  3. 約9日目:遅れて Montmorillonite(HcMg) が SI = 0 に到達し、以降こちらが主役になる(最終 \(9.8 \times 10^{-3}\) mol)。溶液に Al が十分あるため、Al を多く使う Montmorillonite でも飽和に届く。
  4. 一方 Saponite(Mg) は、SI ≈ −1.5 のまま一度も析出しない。組成がほぼ同じ Saponite(FeMg) が出るのに、なぜこちらは負けるのか。
重要

答え:勝敗を分けたのは Fe の供給である

Saponite(FeMg) と Saponite(Mg) の違いは Fe の有無だけである。この系では Fayalite が溶けて Fe を供給するため、Fe を取り込める Saponite(FeMg) は飽和に達し、Fe を使えない Saponite(Mg) は——log K だけ見れば 28.810 と Saponite(FeMg) の 26.022 より大きい(=一見安定に見える)にもかかわらず——材料の組み合わせが揃わず、SI が負のまま出られない

「どの相が出るか」は、log K の大小だけでは決まらない。その相が要求する元素が、実際に溶液に供給されているかが効く。これは本シリーズを貫く「二次鉱物の顔ぶれは元素供給で決まる」という主題そのものである。


8. 例E:ゼオライトと「水の活量」 — Laumontite と Wairakite

CarbFix 型の低温モデル(#17)では、終盤にゼオライトが問題を起こす。ゼオライトは、供給される陽イオンだけでなく 水そのものの活量 \(a(\mathrm{H_2O})\) に支配される点が特徴的である。これを Laumontite(ローモンタイト)と Wairakite(ワイラカイト)で見る。両者は骨格 \(\mathrm{Ca(Al_2Si_4)O_{12}}\) が同じで、結晶に取り込む水の数だけが違う

Laumontite … ·4H2O        Wairakite … ·2H2O

したがって Ca・Al・Si の供給では両者の勝敗は決まらない。決めるのは水の活量である。これを式で確かめよう。両者の溶解反応(Thermoddem、25℃)を材料に、\((1)\) そのまま・\((2)\) 逆向きで足す。

  (1) そのまま :  Laumontite + 8H+       = 2Al3+ + Ca2+ + 4H4SiO4   (+11.695)
  (2) 逆向き   :  2Al3+ + Ca2+ + 4H4SiO4 = Wairakite + 8H+ + 2H2O   (-14.444)

左右で \(2\mathrm{Al^{3+}}\)\(\mathrm{Ca^{2+}}\)\(4\mathrm{H_4SiO_4}\)\(8\mathrm{H^+}\) がすべて相殺し、水だけが残る

\[ \text{Laumontite} = \text{Wairakite} + 2\mathrm{H_2O} \] \[ \log K = 11.695 - 14.444 = -2.75 \quad (25℃) \]

この反応の平衡定数は、固体の活量を 1 と置くと生成物側の水だけが残り、\(K = a(\mathrm{H_2O})^2\) となる。両者が釣り合う「水の活量のしきい値」は、\(K = a(\mathrm{H_2O})^2\)\(a(\mathrm{H_2O})\) について解いて求まる。

\[ a(\mathrm{H_2O}) = 10^{\,\log K / 2} = 10^{-2.75/2} \approx 0.042 \quad (25℃) \]

25℃ では、しきい値はわずか 0.042 である。ふつうの希薄な水(\(a(\mathrm{H_2O}) \approx 1\))はこれをはるかに上回るので、Laumontite が圧倒的に安定になる。温度を上げると脱水 log K は上昇し、しきい値も上がる。PHREEQC で各温度の脱水 log K を計算すると、次のようになる。

温度 脱水 log K しきい値 \(a(\mathrm{H_2O})\) 純水(\(a\approx1\))での安定相
25 ℃ −2.75 0.042 Laumontite
100 ℃ −1.54 0.17 Laumontite
200 ℃ −0.39 0.64 Laumontite
250 ℃ +0.17 1.21(>1) Wairakite

このしきい値(表の3列目)を、温度を横軸・水の活量を縦軸にして描くと、どちらのゼオライトが安定かを一目で読める「相図」になる。境界線(黒)が、いま計算したしきい値である。

Laumontite と Wairakite の安定領域を、温度と水の活量 a(H₂O) の平面に描いた相図。黒い境界線=しきい値 a(H₂O)。境界より上(水が多い側)が Laumontite、下(乾いた側)が Wairakite。緑の太線は、本シリーズのモデルが扱う希薄な水(a≈1)の位置。

Laumontite と Wairakite の安定領域を、温度と水の活量 a(H₂O) の平面に描いた相図。黒い境界線=しきい値 a(H₂O)。境界より上(水が多い側)が Laumontite、下(乾いた側)が Wairakite。緑の太線は、本シリーズのモデルが扱う希薄な水(a≈1)の位置。

この図の読み方は「今の水がどの領域にいるか」を見るだけである。脱水 log K の数字を直接読む必要はない。

  1. 縦軸の位置を決める — このシリーズで扱う地下水は希薄なので \(a(\mathrm{H_2O}) \approx 1\)、すなわち図のいちばん上(緑の太線)にいる。
  2. その線がどの色の領域を通っているかを見る — 低温側では、緑線は境界線よりずっと上、つまり Laumontite(青)の領域を走っている。だから低温では Laumontite が安定で、Wairakite は出ない。
  3. 温度を右へたどる — 温度が上がると境界線がせり上がってきて、約 235℃ で緑線(a≈1)と交差する。ここから先、緑線は Wairakite(橙)の領域に入る。つまり 純水でも 235℃ を超えると Wairakite に変わる

この約 235℃ という値は、Liou (1971) (Liou 1971年) の実験による相境界(約 230℃)とほぼ一致する。Wairakite を低温で出す唯一の方法は、緑線を下げること、すなわち 水の活量を下げる(高塩濃度・蒸発・脱水)ことである。低温の CarbFix 系でゼオライトの取り扱いが難しいのは、この水の活量による微妙な綱引きが背後にあるためである。


9. 【別軸】「出ない」にはもう一種類ある — 速度論の壁

ここまでの例(例D の Saponite(Mg)、例E の Wairakite)は、いずれも材料の元素は溶液にあるのに飽和に届かない、すなわち熱力学(SI)の負けであった。しかし「出ない」には、もう一つ別の種類がある。材料そのものが溶液に供給されない場合である。

「出ない」のタイプ 判定に使うもの
① 材料はあるが飽和しない(熱力学) \(\mathrm{SI} = \log(\mathrm{IAP}/K)\)(= log K の世界)
② 材料が供給されない(速度論) 溶解速度(KINETICS)。log K では決まらない

②は、#18 で導入した有効反応表面積(RSA)や、#17 の玄武岩ガラスの溶解速度が支配する世界である。ある元素の供給源となる一次鉱物が速度論的に「固く」溶けにくければ、その元素を要求する二次鉱物は、log K がどれだけ大きくても飽和に届かない。Lasaga (1984) (Lasaga 1984年) が示したように、二次鉱物の生成は一次鉱物の溶解に律速される。

ヒント

「出ない」を見たら、まず問う — 材料は溶液に来ているか?

来ていれば、勝負は SI(log K)の世界である。来ていなければ、それは速度論(KINETICS)の話であり、いくら反応を組んで log K を出しても答えは変わらない。この2つの軸を切り分けることが、地球化学モデルの結果を「読む」うえで決定的に重要である。


10. 使い回せる手順書

最後に、鉱物どうしの安定性を log K で比べるときの手順をまとめておく。

  1. 関係する鉱物の 溶解反応と log K をデータベース(.dat)から書き出す。
  2. 作りたい式 を決める(なるべく固体+水だけ、または固体+CO2 など)。
  3. 組む:逆向き=符号反転/n倍=n倍/足す=log K を足す。
  4. 両辺の 同じ物質を消す(イオン・H+・H4SiO4 など)。
  5. 残った式の log K の符号を読む:+=生成物が安定(下り)/−=反応物が安定
  6. kJ に直す:\(\Delta G^\circ = -2.303\,RT \times \log K\)(25℃で 5.71、100℃で 7.14、250℃で 10.02)。
警告

生の log K を直接比べてはいけない

付録の表を見て「Quartz は −3.7、Anorthite は +24.2 だから Quartz が安定」と考えるのは誤りである。反応式ごとに H+ の数(8個 vs 2個)も Si の数も違うので、生の log K は別々のものさしなのである。鉱物どうしを比べるときは、必ず §4 の手順で両者を1本の反応式にまとめ(= Al3+ や H+ を消し)てから比べること。消えて初めて、同じ土俵の比較になる。

そして、「この溶液から実際に析出するか?」の最終判定は log K ではなく SI(=モデル出力の活量が必要)で行う。本稿の例B〜Dで実データの SI を参照したのは、このためである。


付録:本稿で使った Thermoddem の log K(25℃、溶解反応)

すべて公開データベース Thermoddem (Blanc ほか 2012年) の値である。

鉱物 / 種 溶解反応 log K
Anorthite CaAl2Si2O8 + 8H+ = 2Al3+ + Ca2+ + 2H4SiO4 24.235
Kaolinite Al2Si2O5(OH)4 + 6H+ = 2Al3+ + 2H4SiO4 + H2O 6.483
Quartz(alpha) SiO2 + 2H2O = H4SiO4 −3.734
Calcite CaCO3 + H+ = Ca2+ + HCO3- 1.847
Dolomite CaMg(CO3)2 + 2H+ = Ca2+ + Mg2+ + 2HCO3- 3.533
Magnesite(Natur) MgCO3 + H+ = Mg2+ + HCO3- 1.415
CO2 溶解 CO2 + H2O = HCO3- + H+ −7.821
Laumontite Ca(Al2Si4)O12·4H2O + 8H+ = 2Al3+ + Ca2+ + 4H4SiO4 11.695
Wairakite Ca(Al2Si4)O12·2H2O + 8H+ + 2H2O = 2Al3+ + Ca2+ + 4H4SiO4 14.444
Saponite(FeMg) (Fe を含む端成分) 26.022
Saponite(Mg) (Fe を含まない端成分) 28.810
Montmorillonite(HcMg) (Al を多く使う端成分) 5.996

※ この生 log K は、そのまま鉱物間で比較しないこと(§10)。比較は §4 の手順で反応を1本作ってから行う。



References

Blanc, Ph., A. Lassin, P. Piantone, ほか. 2012年. 「Thermoddem: A geochemical database focused on low temperature water/rock interactions and waste materials」. Applied Geochemistry 27 (10): 2107–16. https://doi.org/10.1016/j.apgeochem.2012.06.002.
Gysi, Alexander P. 2017年. 「Numerical simulations of CO2 sequestration in basaltic rock formations: challenges for optimizing mineral-fluid reactions」. Pure and Applied Chemistry 89 (5): 581–96.
Lasaga, Antonio C. 1984年. 「Chemical kinetics of water-rock interactions」. Journal of Geophysical Research 89 (B6): 4009–25. https://doi.org/10.1029/JB089iB06p04009.
Liou, J. G. 1971年. 「Analcime equilibria」. Lithos 4 (4): 389–402. https://doi.org/10.1016/0024-4937(71)90122-9.
Satake, S., H. Yang, K. Mori, ほか. 2025年. 「Behavior of Carbonated Water in Basaltic Rocks in the Vicinity of an Injection Well for CO2 Geothermal Power Generation」. Energies 18: 2251. https://doi.org/10.3390/en18092251.


※本記事で参照した飽和指数(SI)は、既刊 #18(Satake et al. 2025 再現)の公開済みモデルに、化学条件を一切変えず SI 出力のみを追加して取得したものである。使用した log K はすべて公開データベース Thermoddem の値である。

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